2019.12.12 非婚ひとり親に対する税制改正について
最近のニュースで未婚(非婚)のひとり親も対象とする支援策が近く合意するとの報道がありました。この動きは多くの非婚のひとり親にとって大きな支援になるものです。そこで、この変化について私の見解を書きたいと思います。
ひとり親を税制上支援するしくみのひとつに「寡婦控除」があります。対象となるのは下記にあてはまる「死別」または「離婚」した人たちとなり、非婚の母は対象外です。
(1) 夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない人、又は夫の生死が明らかでない一定の人で、扶養親族がいる人又は生計を一にする子がいる人です。この場合の子は、総所得金額等が38万円以下(令和2年分以後は48万円以下)で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族となっていない人に限られます。
(2) 夫と死別した後婚姻をしていない人又は夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人です。この場合は、扶養親族などの要件はありません。
(注) 「夫」とは、民法上の婚姻関係にある者をいいます。
(国税庁ホームページより https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1170.htm)
寡婦控除の適用があるのとないのでは、住民税や所得税のほか、公営住宅の家賃や保育料などにも影響します。なかには非婚の母に対して「みなし適用」をしている自治体もありますが、あくまでも各自治体の判断であり、長い間、法律上は区別(差別)されたままでした。
非婚の母に対する寡婦控除は「非婚の出産を奨励することになる。伝統的な家族のあり方が崩れる」といった保守的な意見が強く、今日まで見送られてきました。しかし、12月11日に行われた自民党税制調査会の小委員会では、非婚のひとり親に対しても、「死別」や「離婚」した親と同じように寡婦控除を適用することを含め、来年度の税制改正大綱の内容を固めたとのこと。差別がなくなることは当然であり喜ばしいことですが、正直少し遅すぎる気もします。
では、非婚のひとり親に対して寡婦控除が適用されることは、どのような影響があるのでしょうか。
個々のひとり親世帯の状況から見ると大きく3つが考えられるでしょう。
【経済的なゆとりが生まれる】
直接的な減税のほか、公営住宅の家賃や保育料負担が減ることで、年間数万から十数万程度の余裕ができる世帯が生まれます。そのお金で子どもに習い事をさせてあげたり、将来の大学進学のための貯金などもできるようになります。これは家庭の経済事情と大学進学の影響が社会問題化しつつある中にあって、全ての子どもに平等なチャンスを与えることに繋がります。
【精神的なゆとりが生まれる】
経済的な安定は精神的な安定にもつながります。これまでよりも経済的に少し余裕ができたことで、日々の暮らしへのプレッシャーや不安が軽減し、多様な選択肢のなかで、ゆとりを持って生活することも可能になります。Wワークやトリプルワークの時間を減らし、睡眠時間や自分のための時間に充てることもできるようになります。
【自然体で生活できるようになる】
「非婚の母」には偏見や差別がついてまわり、苦しんできた人は多いです。しかし、税制上の差別が撤廃されることで、「非婚」は「死別」や「離婚」と同じような一つのスタイルとして認識されるでしょう。このことはこれまでに非婚の母と言ってこれなかった(カミングアウトできなかった)人たちにとっては、嬉しいことです。これまでは社会的に認められていないとの認識を持ちやすく、どこか気を張って生きている人が、これからは自然体で生活できるようになると思います。
以上のような3点が想像できます。
ちなみに私の主宰している選択的シングルマザーのコミュニティ「SMCネット」では、社会保障をはじめから当てにするのではなく、一人で最後まで責任を持って育て上げるという意識を持っている人ばかりです。しかし、未来は不確実でリスクがあります。このような責任感や自信を持ってSMCへ進める人は僅かで、年齢が高くなってから出産する人が多いのも事実です。
今回の税制改正は政府や社会がこれまでの差別を改め、時代の変化や家族の多様性を受け入れつつあると解釈できます。ここ数年「非婚の母」は少しずつ増えていますが、今後は一つの生き方や家族の形として、さらに増えるのではないかと思います。
(女性と子育て研究所 SMCネット主宰 高田真里)
2015.2.3 深刻化する子どもの貧困
2015年1月31日(土)に行なわれた、横浜YWCAの公開講座「女性と貧困~シングルマザーの現状から~」に参加しました。講師であるNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子さんより、シングルマザーに対する偏見や、仕事を複数掛け持ちしても貧困という現状についてお話を伺い、あらためてこの問題の深刻さを痛感しました。
■働いているのに貧困
昨今、子どもの貧困、女性の貧困が深刻化しています。
経済的に困窮している親(いわゆる貧困状態にある親)の多くは「働かなくて困窮している」のではなく「一生懸命働いても困窮している」状況です。子どもがいる現役世帯の2012年の相対的貧困率は、大人が2人以上の世帯では12・4%。一方、ひとり親世帯は54・6%と生活の困窮が問題になっています。
経済協力開発機構(OECD)のデータ(2010年)を基に各国を比較すると、就労していないひとり親世帯の相対的貧困率は米国が90・7%、ドイツが54%などと高く、日本は50・4%でOECD平均の58%を下回っています。
そして就労しているひとり親世帯の貧困率は、米国が31・1%、ドイツ23・8%、OECD平均も20・9%と、それぞれ大幅に下がっています。一般的には就労すれば所得が増えるのが当然ですが、日本は50・9%と逆に上昇しています。日本のひとり親世帯は働いても貧困から抜け出せません。仕事を掛け持ちし寝る間を惜しんで働いても豊かになれないという状況です。
■ 貧困が子どもに及ぼす影響
現在、日本の子どもの貧困率は16%を超え深刻な状況です。親の貧困が子どもに影響する貧困の連鎖も大きな問題になっています。
貧困の連鎖として、親の所得の低さが、教育面で影響していると指摘されています。文部科学省の全国学力・学習状況調査(2013年度)の分析(お茶の水女子大学)によると、親(世帯)の年収が上がるほど子どもの成績も上がる傾向にありました。このほか、貧困による健康格差なども指摘されています。
一方で、経済格差と学力の関係を分析したお茶の水女子大によると、学習時間と学力の関係も高いなど、親の所得が低いからといって、必ずしも子どもの学力が低くなるとは限らない、としています。親の貧困=子の貧困というわけではありません。しかし、親の経済・社会的格差が子に影響する貧困の連鎖が指摘されているのも事実です。
また、子どもの貧困は経済的な貧困に留まりません。「部活や習い事を諦める」「修学旅行に行けない」等、満たされない体験を繰り返す貧困世帯の子どもは、自己肯定感や生きる意欲を奪われていきます。そして自己肯定感が低いと人間関係を築くことを困難に感じ、その後の人生で生きづらさを抱えることも少なくありません。
昨年8月、政府は「子どもの貧困対策に関する大綱」を決定しました。
閣議決定した「子どもの貧困対策に関する大綱」では、「子どもの将来が生まれ育った環境に左右されず、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る対策は極めて重要だ」として、教育や生活の支援などに取り組むとしています。
具体的には、学校や地方自治体の福祉部門などと連携して家庭環境に応じた支援を行う「スクールソーシャルワーカー」を今後5年間に現在の1,500人から 1万人に増やすことや、高校生向けの給付型の奨学金や大学生向けの無利子奨学金を拡充することなどが盛り込まれています。
限られた予算と人員の中で課題はまだまだ山積みですが、スクールソーシャルワーカーが増えることで、様々な困難を抱える家庭に必要な支援が行き届き、1人でも多くの子どもが適切な養育や権利を得られることを願います。
(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰 高田真里)
2014.9.21 選択的シングルマザー ~日本の現状~
■選択的シングルマザーが妊娠に至る日米の違い
今日の朝日新聞GLOBEに、SMC(Single Mother by Choice=選択的シングルマザー)の記事が掲載されていました。
※選択的シングルマザーとは、シングルのまま妊娠・出産し、自らの意思で1人での子育てを選んだ(選ぶ)女性のこと
ジェーン・マテス氏が創設したアメリカの選択的シングルマザーの会は現在約3万人の会員がおり、会員の約8割が精子バンクを介して匿名の男性から精子提供を受けているそうです。
アメリカのドラマや映画では、レズビアンのカップルが精子バンクを訪れ、人種やIQ、趣味や特技等から希望のタイプの精子提供者を探したり、成人した子どもが精子バンクのネッワークを通じて兄弟姉妹を探すシーンを時々見かけます。
ここ数年、日本でもSMCが増えていますが、妊娠に至る経緯はアメリカとは少し異なります。
日本では非配偶者人工授精(AID)は法律婚の夫婦が対象であり、シングルの女性が合法的に第三者から精子提供を受けるこはできません。
アメリカのように法整備が整っていないこともあり、日本のSMCは「恋人(パートナー)との性交渉で妊娠し、結婚を選択しない」というケースが多いように感じます。
「妊娠可能なタイムリミットが迫っているけれど、特定の恋人がいない」人や「出産後に男性から親権を主張されるのが不安」という人の中には、インターネット上で見ず知らずの精子提供者を探す人もいます。この様子は2014年2月27日(木)にNHKのクローズアップ現代で取り上げられ大きな反響がありました。
生殖医療の技術が進歩した現代で、子どもを持つ手段としてどのような選択をするかは個人の価値観によりますが、倫理的にどう考えるかは極めて難しい問題だと思います。
■他人に左右されない幸せの価値
日本では「子どもの出生は婚姻内で」という意識が強い文化ゆえ、妊娠先行型結婚、いわゆる「できちゃった婚」が結婚の全体数の25%を占めるともいわれています。そしてその結果「できちゃった婚」の離婚率は4割を超えます。妊娠を機に結婚し生涯幸せな人生を送る夫婦もいる一方で「結婚は考えていなかったけど、子どもができたから仕方なく」という気持ちで結婚する人が存在するのも事実です。
日本においてSMCという生き方は、まだまだ社会に受け入れられておらず、否定的な意見を持つ方も少なくありません。
しかしながら、本当は親になりたくなかった「ふたり親」と、本当に親になりたいと望んだ「ひとり親」と、どちらが子どもにとって幸せなのでしょうか。
もちろん、親になりたいという熱意だけで子育てはできません。経済的、精神的な自立が前提になければ、子どもにとっても自分にとっても大変困難な人生になってしまいます。
一生を共にし家庭を築きたいと思えるパートナーに出会い結婚するのは素晴らしいことだと思います。
でも結婚する理由が「適齢期だから」「みんなが結婚してるから」と他人に左右されたものだとしたら、それはとても残念な気がします。自分らしく生きられ、幸せだと思える選択は何か、他人に左右されない幸せの価値を見いだすことが人生の意義ではないでしょうか。
(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰 高田真里)
◎朝日新聞 GLOBE Web版
「選択的シングルマザー増加」
http://globe.asahi.com/worldoutlook/2014091900011.html
2014.8.24 多様化する女性のライフスタイル ~選択的シングルマザーという生き方~
■家族のあり方に対する意識の変化
先日、女性向けファッション雑誌「JELLY」専属モデルの安井レイさんが、自身の妊娠と非婚の母になることを公表しました。
6年間交際していた子どもの父親とは結婚というカタチを取らないそうです。
有名人では他に、道端カレンさんや安藤美姫さんも結婚はせず、最初からシングルマザーとして子育てをされています。
フランスや北欧の非婚での出産率は約50%。婚外子出生率の高さが、全体の出生率低下に歯止めをかけているともいわれています。
一方で日本の婚外子出生率は約2%。(図表1)
内閣府の「国民生活選好度 調査」(2005年)によれば、40歳未満の男性で6割前後、女性で5割前後が「独身の時に子どもができたら結婚した方が良い」という考え方を支持しており、日本では「出産=結婚」という選択をする人が多数派です。
「子どもの出生は婚姻内で」という意識が強い一方で、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2014年)によれば、日本でも婚外子の出生総数に占める割合が、1980年の0.8%から2012年の2.2%へと上昇傾向にあります。(図表2)
現在、日本では3組に1組が離婚する時代。そして妊娠先行型結婚、いわゆる「できちゃった婚」の場合はさらに離婚率が高くなります。
離婚後のシングルマザーの多くは経済的に困窮することが多く、仕事を複数掛け持ちするダブルワーク、トリプルワークでも年収は200万円程度、離婚した夫から養育費を継続的に受け取っているのは2割弱というのが実情です。
■子どもの幸せとは
日本では「両親が揃っていないと子どもがかわいそう」というイメージを持つ人が多いように感じるのですが、本当にひとり親家庭の子どもはみんな不幸なのでしょうか?
子どもの幸せとは何か。様々な意見や考え方があると思います。
「安全な環境下で毎日お腹いっぱいご飯を食べ、温かいお風呂に入り清潔な布団で安心して眠る。精神的に安定した特定の養育者からたくさんの愛情をそそがれ、年齢に応じた教育を受け同世代の友達と過ごす」
福祉の視点で考えると、子どもにとっての幸せとはこういうことだと思うのです。
両親からの虐待で命を奪われる子どももいれば、ひとり親、祖父母、里親のもとで幸せに暮らしている子どももいます。
子どもの幸せとは家族構成で決まるものではなく、大切なのは環境や愛情なのではないでしょうか。
非婚の母になることを公表した安井レイさんが「この結果が子どもにとって、よかったのか悪かったのかわらないけど、そうすると決めた以上、自分なりに幸せにしていこうと思います」とコメントしていました。とても潔ぎよく心強く感じます。
道端カレンさん、安藤美姫さん、安井レイさん、非婚で出産することを選んだ女性に共通するのは「自立」だと思います。
大切なのは経済的な自立だけでなく、精神的な自立です。社会人として母親として必ず子どもを幸せにするという決意は、精神的に自立していなければ成り立ちません。
家族のあり方に対する国民意識の多様化が進み、女性のライフスタイルや出産に対する考え方も変化しています。
多様な価値観や選択が認められ、生まれてくるすべての子どもの人権が守られる社会にするためには、法整備をはじめとした社会全体の意識改革が必要だと思います。(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰 高田真里)
2014.6.25 少子化は女性の責任ですか?~セクハラヤジと女性手帳の共通点~
■結婚も出産も個人の選択
東京都議会のセクハラヤジ問題が大きな騒動になっています。
ヤジを飛ばした鈴木章浩都議は、塩村文夏都議に対して「早く結婚していただきたいという思いから」言ってしまったとのこと。同じ女性の立場から考えると、親にも言われたくないようなことを、公の場で他人に言われるのはとてもツライものです。
言うまでもなく、結婚するしない、出産するしないは個人の選択の問題です。政府だろうと個人だろうと他者が介入することではありません。世の中には結婚や出産を望んでいるのに叶わず、悩んでいる女性は大勢います。「早く結婚しろ」「産めないのか」という差別的な発言は、深く心を傷つけるだけではなく、人権侵害に値します。
日本では「女性の幸せは結婚」「子どもを産むことが女性の仕事」という固定観念からか「結婚しないの?」「子どもはまだ?」と他人の人生に土足で踏み込む人が少なからず存在します。そして「子どもは家庭で育てるもの」「共働きは子どもがかわいそう」という偏見が重なり、女性の社会進出を阻むと同時に、少子化の要因のひとつになっているのだと思います。
■人権先進国スウェーデンと人権後進国日本
スウェーデンは専業主婦がいない国といわれ、女性の就業率と出生率の高さを両立しています。
国会議員の女性率、専業主婦率、婚外子率を日本と比較すると大変興味深い数字です。
これは制度や社会保障の違いはもちろん、国民それぞれの意識や価値観も大きく影響していると思われます。
かつてはスウェーデンも1999年に出生率1.5で最低となりましたが、2010年には1.98まで回復しました。スウェーデンは男女機会均等から出発した家族政策や女性解放政策によって、少子化対策に成功したといわれています。
人権先進国スウェーデンと人権後進国日本。少子化対策や女性の社会進出においてもスウェーデンから学ぶことは多いと思います。
■セクハラヤジと女性手帳の共通点
今回のセクハラヤジ問題を見ていて感じたのは、男性議員のなかには「少子化は女性の意識を変えれば解決する」「晩婚化・未婚化を解決すれば子どもが増える」とだけ思っている方がいるのではないかということです。
そのような一方的な視点が、議会という公の場での「早く結婚したほうがいい」というヤジとして発せられ、女性からの批判を浴びて見送られた「女性手帳」という発想につながっている気がします。
セクハラヤジも女性手帳も「少子化は女性の責任」であり、女性に対する啓蒙さえすれば少子化は改善できるという誤った解釈が根底にあるのだと思います。
政府は今年2月、2013年度補正予算で「地域少子化対策強化」として地方自治体の婚活を支援する助成制度をスタートしました。予算規模は30億円、都道府県に4000万円、市町村に800万円が交付されるそうです。
少子化対策=婚活支援という発想もわからなくはありませんが、最も重要なのは「結婚→出産」という順番を前提とした対策ではなく、まず「誰もが安心して子どもを産み育てやすい環境を整える」ことではないでしょうか。
社会全体でさまざまな視点からの少子化に関する問題提起をし、少子化は決して女性個人の責任ではなく、子どもを産み育てにくい社会の実情が背景にあることを認識することが少子化対策の第一歩です。さらには婚姻制度や家族のあり方の多様性、社会構造そのものを見直すことが必要だと思います。(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰 高田真里)
2014.6.2 ひとり親家庭の抱える問題 〜厚木男児遺棄事件に思うこと〜
■事件の背景
日々、児童虐待の痛ましいニュースが耐えない中、また悲しい事件が起きてしまいました。
当時5歳だったとみられる男児に、食事や水分を十分に与えず衰弱させて死亡させた疑いで父親が逮捕。
児童相談所から「中学校に入学するはずの男の子が学校に来ない」と通報を受けた警察が、父親である容疑者を立ち会わせて室内に入り白骨化した遺体を発見しました。
逮捕された父親は、妻が家を出た後は仕事をしながらひとりで育児をしていたシングルファーザー。
「週に1、2回しか食事を与えておらず、いずれ衰弱死してしまうと思っていた」と供述しているそうです。
かわいい盛りの幼い子どもを置いて出て行った母親と、息子を餓死させた父親。この夫婦にどのような事情があったのかはわかりませんが、ひとりぼっちで空腹や恐怖と闘いながら亡くなっていたった5歳の子どもの気持ちを考えると本当に胸が痛みます。
亡くなった男児は厚木市が実施した3歳半健診を受診せず、両親は再三の呼び掛けにも応じなかったとのこと。逮捕された父親の供述通りなら、男児は検診の約2年後に亡くなったことになります。 一般的に乳幼児検診が未受診の家庭は、育児に問題を抱えている可能性があるため、もし3歳半健診を受診しなかった段階で行政が何らかの介入をしていたら、と悔やまれます。
検診や就学に関する子どもの情報は、自治体と関係機関で共有できていないという制度の問題も多く、所在が不明の子どもは全国に数千人いるともいわれています。DVが原因で住民票を移動できない事情の母子も多いのですが、安全やプライバシーに配慮した上で子どもの所在や安否を確認できる制度の整備が必要だと思います。
■ひとり親には「ハード面」だけでなく「ソフト面」のサポートが必要
2010年にも大阪で、子ども2人が餓死した事件がありました。 母親の育児放棄によって3歳女児と1歳9ヶ月男児の餓死した「大阪2児餓死事件」は記憶に新しいと思います。 (母親は2013年3月に懲役30年が確定し服役中)
今回の厚木の事件も2010年の大阪の事件も、子どもを置き去りにして餓死させたのは、シングルマザー、シングルファーザーという「ひとり親」でした。
昨今、共稼ぎでも経済的に苦しい家庭が多い中、ひとり親で仕事をしながら育児を行うのは容易なことではありません。近くに頼れる実家や親戚があったり、同じ境遇の友人と助け合えるような環境にある人は少なく、多くのひとり親が睡眠時間を削り、朝から深夜まで働いて子どもを育てています。特に母子家庭の貧困率は高く、仕事を掛け持ちするダブルワーク、トリプルワークでも年収は200万円程度というのが実情です。
現在、子育て支援に積極的に取り組む自治体や地域が増えています。
一時預かりやショートステイにファミリーサポート、昔に比べると子育て支援の幅はとても広がりました。
ただ、個人的には「ハード面」だけでなく「ソフト面」の支援をもっと強化すべきだと考えています。 情報リテラシーが高ければ、自分の都合や状況に応じて支援を選択できますが、自分にはどんな支援が必要なのかさえもわからず、助けを求めることもできないほど精神的に追いつめられている親も多く、そんな人たちにはまずメンタル面でのサポートを行った上で、必要な機関に繋ぐことが必要なのではないでしょうか。
もちろんひとり親で苦労しているからといって、どちらの事件も決して許されることではありません。 ただ、誰にも頼れず孤立しているひとり親が「助けて」「1人ではもう無理」と支援を求めることかでき、地域や行政が快く速やかに救いの手を差し伸べられる社会であったら、どちらの事件も違った結果になっていたのかもしれません。
このような痛ましい事件を二度と起こさないためにも「自助」「共助」「公助」がそれぞれの役割を果たしながら相互に連携、協力し合える社会にすることが、私たちの課題であり責任だと思います。(女性と子育て研究所代表/SMCネット主宰 高田真里)